――観光という側面を含めて、この福岡の街を含めた九州をもっと元気にさせる方策はどのようにお考えでしょうか
榎本 私は、アジアの玄関口というフレーズも大切な一方、九州としての福岡を前面に出していくべきだと思います。一例を挙げると、山海や河川など、自然が素晴らしいというところをクローズアップして、皆さんに来ていただき、福岡を含め九州を回遊していただくということです。自分のテリトリーに固執するのではなく、大局的な視点で地域活性の方策を検証し、実践していくべきではないでしょうか。私は、第3次産業より1次産業が、キーファクターであるとみています。農林水産業が、再び地域活性の鍵を握っています。美味しい米、魚など、食糧は人間生活が豊かになる源です。次に大切なのは、水源の整備=自然との共生です。自然環境を整えることで、その魅力が観光にも繋がっていくのです。この第1次産業への回帰を行なうことで、地域には、もっと活気が生み出されると思いますね。これに早く皆が気づき、そして実施していくことです。福岡という枠だけでなく、九州という枠組みで取り組んでいくことです。
――榎本会長がおっしゃる通り、自国および自地域で食・水そしてエネルギーを創り上げて確保していくことが、肝要でありますね
榎本 その通りです。食糧、水源そしてエネルギーの創出と確保は、わが国が今後真摯に取り組んでいかねばならない問題です。自前で調達していかねばならない時代に突入しているのです。世界人口70億人、2050年には90億人を超えると言われています。遠い先の話ではありません。喫緊の課題です。これは私論ですが、現在の若者はとても有能な方々が多いです。一方で定職につかない、つけない人々も増加していることも事実です。そのような人々を国策として農業や林業などに従事させて、国費で対価を提供していく仕組みをつくるべきではないかと思います。一定期間でいいのです。このことで、農林水産の分野が活性され、自前で食糧や資源が生み出されるのです。それらに従事することで、食糧や資源をつくり出す大切さや厳しさを学べ、もっと豊かな社会が形成されていくのではないでしょうか。そして、第1次産業が強化されるのです。
――榎本会長は、福岡地所を退職された後、単身ブラジルへ渡られました。サンジョセ・ドス・カンポスという片田舎で、14年かけて都市開発を手がけ、その地域発展に多大な貢献をされました。そのご経験を踏まえて、次世代の経営者やリーダーに伝えたいことをお話ください。
榎本 ブラジルでの仕事は、私のかけがえのない財産です。都市開発の仕事で、その地域の作業員として従事していた地元民が、家族のために賢明に働く姿を見て、人生観を揺さぶられました。ブラジルに渡って間もない頃、働いてくれる作業員たちをあるパーティに呼んだのです。その時、地元の人たちはみんな料理を食べずに持って帰ろうとしていました。しかし、私たちには気を遣って、食べたふりをしていたのです。私たちを気遣いながら、自分が食べる分を家族に食べさせようとね。その姿を見たとき、企業や現場のトップに立つことは、そこで働く従業員やその家族を幸せにする使命があるのだと、目から鱗が落ちる思いでした。
経営者、リーダーは共に業務を担うメンバーの幸せをいかに生み出すことができるかが使命であることを心に刻んでいくことです。それが、企業経営を健全にさせ、地域経済へ貢献する基本姿勢になります。
福岡の活性化には、今後も尽力していきます。それは、福岡を愛しているからです。また、今の若い方々には、ぜひとも海外に積極的に渡って見聞を広め、ビジネスや生活を学んで、その培った力を我が国のために活かして欲しいですね。
――海外に渡って見聞を広める、それが会長にとってはブラジルだったのですね。
榎本 ええ、そうです。将来はブラジルの方々からたくさんいただいた恩返しのために、再度ブラジルに渡って会社経営を行ないたい、それが私の夢です。
――本日は、榎本会長の貴重なお話ありがとうございます。
≪ (前) |
※記事へのご意見はこちら